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Talk event report

「プロダクトデザインへの思考と交流」

Meet Design 2023 トークイベントレポート

日時:2023年6月15日(木) 15:15-16:45
会場:アトリウム内 LIFESTYLE SALON ステージ

2023年6月14日から17日までの3日間、東京ビックサイトにて開催された「インテリアライフスタイル2023」にて、Meet Designにとって2回目となる展示を行いました。
本記事では、「プロダクトデザインへの思考と交流」をテーマに、Meet Designを主宰する株式会社100percent代表取締役の坪井信邦が司会を務めたトークセッション当日の様子をお伝えします。

トーク前半では、第一線で活躍する海外経験豊富なデザイナーやエディターを迎え、さまざまな角度からプロダクトデザインについての思考を交流し、後半では現在進行中のMeet Design協業プロジェクトについて、デザイナーとメーカーによるプレゼンテーションと意見交換を行いました。

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中坊 壮介

Sosuke Nakabo Design Office

 

1972年京都生まれ。1998年京都市立芸術大学プロダクト・デザイン専攻卒業。松下冷機デザインセンター勤務後渡英、2002年英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のデザイン・プロダクト科修士課程修了。良品計画企画デザイン室、ジャスパー・モリソンのロンドンオフィス勤務を経て、2010年Sosuke Nakabo Design Office設立。

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鈴木 元

GEN SUZUKI STUDIO

 

1975年生まれ。プロダクトデザイナー。金沢美術工芸大学卒業。Royal College of Art, Design Products科修了。パナソニック株式会社、IDEOロンドン、ボストンオフィスを経て2014年にGEN SUZUKI STUDIOを設立。スタジオを自宅に併設し、生活とデザインを隔てないアプローチで、Herman Miller, Casper, Omronなど国内外の企業と協業している。GERMAN DESIGN AWARD金賞、IDEA賞金賞、クーパーヒューイット国立デザイン美術館永久収蔵など受賞多数。2023年 D&AD賞プロダクトデザイン部門審査委員長。

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松澤剛

株式会社E&Y代表取締役

デザインエディタ

 

式会社E&Y代表取締役。ファニチャーやプロダクトを軸とした国内外のデザイナーの作品をプロデュースし、現コレクションは50点以上になる。2006年にZANOTTAとのコラボレーティブエディションをミラノで発表し、2015年には新たなコレクションライン「edition HORIZONTAL」をロンドンにて発表した。作品の一部は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、デザイン・ミュージアム(ロンドン)、パリ装飾芸術美術館、スウェーデン国立美術館などに収蔵されている。また、国内外の建築家やインテリアデザイナーとのプロジェクトや展覧会の企画や編集、イベントのディレクターも務める。

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坪井信邦 (モデレーター)

100percent代表取締役

曹洞宗 僧侶

 

「只管『100%』を追い求め、ゆるぎない価値観を生み出す。」をコンセプトに掲げ、ものづくりに取り組む。代表作品に、外気とガラス内部の温度差で生じるガラスの結露を桜の花びらに見立てた「Sakurasaku」や、2019年の「G20大阪サミット2019」において主賓へのギフトに採用された、折り紙の発想から生まれたレンズクリーナー「Peti Peto(プッチペット)」など、ロングライフなアイテムを世に生み出している。また、オリジナル商品だけではなく、台湾テーブルウェアブランド「TG」などのディストリビューターとしても活動し、日本国内のみならず海外に法人を構えて活躍の場を広げている。

デザインで海外に挑戦すること

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右から)松澤剛、中坊壮介、鈴木元 左) 坪井信邦 

株式会社100%代表の坪井です。本日は「プロダクトデザインへの思考と交流」をテーマに、ご登壇いただいているデザイナーやデザインエディターの方々とのセッションを通して、私たちが「Meet Design」で取り組もうとしている、素材メーカーとデザイナーのマッチングの取り組みについてご紹介できればと思っています。楽しい時間にできればと思いますので、よろしくお願いします。

 

今日はいくつかのトークテーマをもとにお話ができればと思っています。まずひとつ目が、「海外に挑戦した経緯と海外で学んだこと」について。中坊さんは、ジャスパー・モリソンのロンドンオフィスで働かれていた時期もありますが、海外を目指したきっかけはなんでしたか?


中坊

僕が子どもの頃、スーパーカーがブームになっていて、それがきっかけで乗り物がずっと好きでした。大学に入る頃には車のデザイナーになりたいと思うようになったんですが、当時読んでいた『カースタイル』という車のデザイン専門誌に、学生とは思えないような海外の卒業制作が掲載されていて、海外じゃないとこのレベルのデザインはできないんだろうなと思ったんですね。その後ロンドンのRoyal College of Art(以下、RCA)に入学してからは、デザインの関心が車からプロダクト全体に移っていきました。

 

坪井

RCA卒業後、そのままロンドンにいらっしゃったんですか?

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中坊

学生ビザが切れてからは日本に戻り、良品計画に就職しました。当時、2003年に立ち上げられた企画デザイン室という10人ほどの小さい組織に所属していて、その頃からジャスパーのような海外のデザイナーとの仕事がはじまり、窓口を僕が担当していたんです。退職後、海外で仕事をしたいなとさまざまなデザイン事務所にポートフォリオを送っていたんですが、無印時代にお付き合いのあるところに入るのは不義理になるのではと考え、ジャスパーのスタジオには応募していませんでした。

 

それでも結果的にジャスパーのところで仕事をすることになったのは、僕がポートフォリオを送っていたロンドンのマイケル・マリオットにオフィスに、たまたまジャスパーに遊びに来ていたみたいで、当時デザイナーを探していたジャスパーに、僕のポートフォリオを見せたらしいんですね。無印良品での経歴を見て、僕のことを知っているんじゃないかと。それがきっかけとなり、ジャスパーの事務所で無印の仕事を僕が担当することになりました。

 

坪井

元さんが海外に行ったきっかけはなんだったんですか?

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鈴木

僕は大学卒業してからインハウスデザイナーとして働いていたんですが、30歳を目前に、これからどうしようかなと考えていた時に、たまたまデザイン誌のRCA特集を手に取ったんですね。当時はロン・アラッドをはじめ、一線のデザイナー達が教鞭を振るっていて、とても魅力的に見えて、自分もそこで学んでみたいと思ったんです。

海外ではさまざまなことを学びましたが、プロダクトデザインにおいては、日本でも海外でも、何が良いと思うかに大きな違いはないんですよね。プロダクトデザインは道具をつくることでもあるので、デザイナーの趣味嗜好以前に、きちんと使いやすく作られているのか、使う人のことをケアしたデザインなのかなど、ある意味当たり前で、誠実に物づくりに取り組むことが、大切だと学んだように思います。

坪井

松澤さんは、海外でのE&Yの活動はどのようなスタンスで取り組んでいますか?

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松澤

僕らのコレクションは、見本市やトレードショーという場との相性がいいとは言い切れないと思っていて、作品のコンセプトやまとっている雰囲気が、大きなマーケットの場所だとぼやけてしまうのではないかと考えています。海外の見本市といえばミラノサローネだと思いますが、僕らは2008年を最後に出展しなくなりました。ミラノが魅力的なのはわかりますし、拡声器のようにブランドの存在を遠くまで届ける機会として大事だとは思いますが、それよりも僕らはコレクションやデザインに対して、ジャーナリズムの視点から批評されたいという気持ちがあります。

 

その後、海外活動の場をロンドンに移しましたが、ロンドンはある意味残酷で、ビックネームでもたいしたことのないデザインは酷評されるか、無視されてしまいます。一方で、若いデザイナーにとってはチャンスのある場所としてのフェアネスがあるので、僕もたくさん勉強させてもらっていますし、居心地の良さも感じています。

 

坪井

僕が中坊さんと元さんにお会いしたのもロンドンでしたね。ロンドンで大変だったことはありますか?

 

中坊

留学時代の話にはなりますが、プレゼンテーションがまったくうまくいかず、学長が途中で席を離れてしまう経験がありましたね。語学力の問題がありましたし、それは一朝一夕でなんとかなるものでもないので、どうすれば伝わるのか、伝え方を工夫するようになりました。やろうとしていることをいかにわかりやすく伝えられるかが重要だと思います。

 

鈴木

僕もまさに同じことを考えていて、本当にそうなんですよね。僕も英語が苦手だったので、言葉で説明できないから、いかに言葉を使わずにデザインそのものでわかってもらうのかに心を砕いていました。海外では自己主張しないといけないとよく言われますが、そんなことなくて、言葉で主張しなくても、デザインが伝わるものになっていれば人はちゃんと見てくれます。

トーク後半:素材メーカー×デザイナーの協業における「境界線」

坪井

展示会に先駆けて、数ヶ月前からデザイナーと素材メーカーとをマッチングする取り組みが水面下で動いており、今日はマッチングが成功した2組をお呼びして、お話をお聞きできればと思います。まず1組目のSTUDIO COHAKUの濱西邦和さん、廣田硝子の廣田社長、よろしくお願いします。

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右)株式会社 COHAKU 濱西 邦和 左)廣田硝子株式会社 代表取締役 社長/廣田 達朗
 

濱西

STUDIO COHAKUの濱西と申します。現在私は、大学の同級生である黒田達朗との共同代表で、プロダクトとインテリアをメインとするデザイン事務所をやっております。

 

今回meet designでは、「limited」という自社のブランドを出展いただきました。「プロトタイプとマスプロダクトの中間」をコンセプトとして掲げており、自分たちのピュアな考えをもとにデザインしたものを、少量生産で製造から販売まで自社で行っています。

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「limited by STUDIO COHAKU」として発表された「weave」シリーズ

現在廣田さんと取り組んでいる製品についてお話しさせていただきます。今回廣田さんからは、日本酒を飲むような酒器を海外に対しても売っていきたいというお話をいただきました。日本らしさを含めながら、普段使いできるようなものができないかと考え、盃をモチーフにした少し大きめのグラスのデザインを進めています。

 

STUDIO COHAKUでは、「実験的アプローチによる機能的な合理性の探究」を大事にしています。今回のプロジェクトでは、盃の形状を上に伸ばし、高台の中に液体が入るようにデザインしていて、飲み物が入ることで盃のアウトラインが見えてくる形状の実験に挑戦しています。

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実験中のモックアップ

坪井

濱西さんは、廣田さんに聞いてみたいことはありますか?

 

濱西

廣田硝子さんは、海外の展示会への出展や、海外のマーケットに向けて商品を販売されていますが、日本のガラス製品は海外ではどのように受け入れられているのか、また、日本のガラス製品の強みについてどのように感じられているのかをお伺いできればと思います。

 

廣田

弊社は、今年で創業124年になる東京錦糸町の硝子メーカーです。江戸切子や吹き硝子など、手仕事による伝統的な製造方法を活かしながら、 現代のインテリアに調和するプロダクトをつくり続けているんですが、はじめてアンビエンテに出展した際に感じたのは、ガラス自体、ヨーロッパやアメリカの方たちの間でも使われているので、なかなかその中に日本のガラス製品を売り込むのはむずかしいなということでした。なので、日本製としてただ売っていくのではなく、日本の食文化を理解してもらえるようなガラス食器づくりにいま取り組んでいるところです。

 

坪井

今回ご登壇いただいている方々への質問があればうかがえればと思います。濱西さん、いかがでしょうか?

 

濱西

プロダクト開発において、われわれデザイナーが関与すべき領域はどこまでなのか、みなさんのお考えを伺いたいです。ブランドのオーナーさんはどこまでデザイナーに求めることが多いのでしょうか?

 

坪井

まず、廣田社長はどのようにお考えですか?

 

廣田

プロダクトを開発する中で私たちが考えているのは、これからはものをつくること自体の意義を問い直すことを重視していかないといけないということです。デザイナーさんとどうしてその商品をつくるのかということをきちんと話した上で、その想いを伝えるためにも、手にとった方に世界観が伝わるような商品にできればと考えています。そのためには、たとえばパッケージを含めた部分もお願いできるとうれしいですね。

 

坪井

中坊さんのお考えはいかがですか?

 

中坊

クライアントの意向や製品によってまちまちではありますが、たとえば、京都祇園の老舗履物専門店である「ない籐」さんと一緒に開発した「JOJO」というサンダルでは、デザインはもちろん、工場を一緒に探すところまでお手伝いさせていただきました。

 

 

お仕事をさせていただく中ではじめて知ったんですが、草履というのは、花緒や前ツボ、底面などが別売りされていて、それらをアッセンブルすることで一足を仕上げていきます。それら各パーツを組み合わせると価格は数十万円ほどになるんですが、着物と同じように、草履に馴染みのある方が減ってきてしまっているので、サンダルのように履ける3万円の草履をつくりたいというご相談をいただいたことが、このプロジェクトのはじまりでした。

 

草履という伝統的なフォーマットがある中で、各パーツに使用する素材の組み合わせを楽しむことができるのがこのプロダクトのおもしろさで、製造の際にも、自分が知っている工場を紹介したり、知人からさらに工場を紹介してもらったりと、ものづくりの部分にも関わっています。頼まれた範囲のことだけやるよりも、できる限りにクライアントと一緒につくっていけることが理想だと思います。ただ、僕のプロフェッションはあくまでプロダクトなので、パッケージといったグラフィックまで担当することは基本的にないですね。

 

松澤

中坊さんの考え方は、至極真っ当だと思います。要は「いいプロダクトをつくりたい」という想いがあるからじゃないですか。工場探しもあくまでそのための過程のひとつであり、デザインと同じように取り組まれていることに納得できます。

 

坪井

E&Yさんの場合、デザイナーさんにはどこまで求めるのでしょうか?

 

松澤

僕らの場合、基本的にデザイナーにお願いするのは製品のみで、それ以外のパッケージや取扱説明書などのグラフィックはレーベルの領域だと考えていて、デザイナーから希望がなければ僕らが担当しています。

 

デザイナーによって、プレゼンテーションの仕方がだいぶ違うので、デザイナーとのラリーのなかで、そのデザイナーの資質がどういったものなのかを見極めながら、かつデザイナー自身がどういう進め方をしたいのかを話すようにしています。デザイナーのことを理解することがまず大事で、E&Yのコレクションで中坊さんと一緒に「MOON」というスツールをつくる際にも、何度もラリーをさせていただきました。

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「MOON」

鈴木

中坊さんと同じく、工場探しを一緒にすることは僕もありますね。最近では、東大阪で取り組んでいる「HIGASHIOSAKA FACTORies」というプロジェクトで、1958年創業の大原電線さんと「EXTENSION CORD」という延長コードのシリーズをつくったんですが、その際には一緒に工場を回るだけではなく、大原電線さんにとって自社ブランドの開発がはじめてということもあったので、成型機を買うための補助金の申請を書くところからお手伝いしました。現在3年ほどプロジェクトが進んできていて、いまはまさに金型も出来上がり、調整しながら頑張っているところです。

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「EXTENSION CORD」

ロゴやパッケージなどのグラフィックを我々がデザインすることは少ないです。あくまでいいものをつくりたいというスタンスなので、その分野を得意とするグラフィックデザイナーに依頼することが多いです。僕の場合、これまでうまくいったケースを考えると、専門家同志がお互いの領域を少しづつ踏み込んだ話をしながら、友人のようなフラットな関係で進めることができたプロジェクトのアウトプットが一番良くなっている気がしますね。

 

濱西

ありがとうございます。まさしくいま、プロダクトデザイナーとしての領域を超えてくる場面が多々あり、どこまでやればいいのかなと悩んでいたところでした。先輩方に強い言葉をいただけたので、これからはどんどん踏み込んで行きたいなと思っています。

デザインのインスピレーションはどこにあるのか

坪井

続いてunknotの花澤啓太さんと、株式会社SUSの羽野聡さんにご登壇いただきます。

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右から)株式会社アンノット 代表取締役、プロダクトデザイナー 花澤啓太

中央)株式会社SUS 営業部 部長/ブランドディレクター 羽野 聡

左)株式会社100percent 代表取締役・Meet Design主宰 坪井信邦

花澤

静岡市でデザイン事務所「unknot」をやっている花澤と申します。今回Meet Designでは、knotというプライベートブランドから、美濃焼の窯元さんとの協業で開発した「フラスタム」という茶器のシリーズを出展させていただきました。静岡はお茶産業で知られている街でもあるので、業界の課題を考えた上で、私なりのひとつの回答になるようなプロダクトをデザインしました。

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「フラスタム」シリーズ

羽野

株式会社SUSでブランドディレクターをしている羽野と申します。弊社は新潟県燕市で金属加工をやっている会社で、レストランで使用されているトレイや、中華料理の定食家さんなどで使用されている箸立てといったステンレス小物の製造をしています。また、自社ブランドとして、真空二重構造のチタン製タンブラーを展開する「SUSgallery」と、今年インテリアライフスタイルでも展示させていただいた「TSUTSU」というブランドを展開しています。

 

坪井

実はこのお二人は最近マッチングが成功して、コラボレーションとしてはまだはじまったばかりです。花澤さんから、今回聞いてみたいことはありますか?

 

花澤

みなさんにお聞きしたかったのが、インスピレーションの源泉についてです。私の場合、割と言葉で降りてくることが多く、普段つながっていなかった言葉と言葉が結びつくことで、仮説のようなひらめきを得ることがあります。ですが決して万人がそうではないような気がしていて、デザイナーのみなさんが普段どのようにインスピレーションやひらめきを得ているのかをお聞きしたいです。

 

坪井

羽野さんは社内で企画も担当されていると思いますが、インスピレーションについてはいかがですか?

 

羽野

商品開発の際に、そのプロダクトがそもそも何であるのかという、因数分解して考えることが、インスピレーションにつながっているんじゃないかなと思います。たとえば、さきほどご紹介した我々のブランド「TSUTSU」は、魔法瓶メーカーとしての原点に立ち返ったプロダクトを展開していて、研磨技術にこだわり、表面の質感にこだわった水筒を開発しています。自然の中にあるさまざま風景を金属に落とし込んでいくという考え方と、様々な伝統工芸、昔からの技術に着目したコラボレーションによって、銀メッキを硫化させたり、銅メッキに緑青を発生させた加工を施しています。

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自然の中にあるさまざま風景を金属に落とし込んでいく

銅を使用しているのは、人類がはじめて身につけた技術が銅と言われていることを参考にしているからです。水筒は生活用品ではありますが、水を入れて持ち運べる道具の由来を辿ってみると、もともと自然の中で川の水や岩肌から滴る水を汲んでいたことにつながるんじゃないかなと思ったんですね。TSUTUSでは、そういった原初的な道具を使うことの疑似体験をプロダクトのデザインに落とし込んでいます。

 

坪井

ありがとうございます。元さんはインスピレーションについてどのように考えていますが?

 

鈴木

インスピレーションのためにはインプットが必要、というイメージが一般的だと思いますが、僕にとってはつくること自体がインスピレーションになっているように思います。インスピレーションを探すための旅に出るのではなくて、スタジオでつくりながらインスピレーションを得ている感覚がありますね。

 

また、少し引いた目線で考えることも意識していて、つくること自体に入り込んでしまうと、あたらしさやかっこいいかたちといった表現に寄りすぎてしまうこともあります。プロダクトデザインは日々の道具をつくることでもあるので、冷静さも持っていた方がいいと思っています。

 

松澤

元さんは、ご自身でつくったものを実際に生活の中で使ってみる作業を大事にされていますよね。

 

鈴木

そうですね。事務所と自宅が同じ建物なので、プロトタイプをそのまま自宅に持っていき、しばらく部屋に置くようにしています。事務所ではどうしても「つくるモード」になってしまうので、熱を冷まして冷静に見るための工夫です。

 

中坊

僕の場合、インスピレーションについてはよくわからないのが正直なところで、逆に日常生活の中からしか発想は生まれてこないのではないかなと思っています。そのためにも、普段から物事を観察するようにしていて、気になったものは写真を撮り、アーカイブするようにしています。

 

自分でもおもしろいと思っているのは、たとえ15年前ぐらいに撮った写真でも、見返せばなぜ自分がそれを撮ったのかがわかるんですよ。それはいまでも同じ琴線に触れるからで、そうやって残しておくことで、自分がなにに感情を動かされるのかを忘れないようにしています。

 

坪井

ありがとうございます。お時間が来てしまったので、本日のトークは以上とさせていただきます。今回ご紹介させていただいたMeet Designの取り組みは、まだはじまったばかりの段階ですが、デザイナーと素材メーカーのマッチングによって商品が生まれることが、デザインレーベルとしての次につながると思いますので、またこの場所に呼んでもらえるように頑張っていきたいと思います。

 

執筆:堀合俊博

開催概要

インテリア ライフスタイル 2023 企画展「Meet Design」

2023年6月14日(水)-16日(金) 10:00-18:00(最終日は16:30)

東京ビッグサイト 西ホールW2 T001-T041
インテリア ライフスタイル2023 公式サイト:www.interior-lifestyle.com

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Photo by Ryoukan Abe

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